Amazonブラックフライデーセールで本を10冊買うと15%ポイント還元というのがあり、10冊買った。
今回は最初に届いた『ドングリの戦略』の感想文を書く。
ドングリの戦略―森の生き物たちをあやつる樹木 / 森廣 信子
そもそもドングリはブナ科の果実の総称。ブナ科の樹木は日本には22種あり、一部は生食も可能なほどおいしい。
当然ドングリは動物にも人気の食糧で、特にクマはドングリが不作だと人里に降りてくるので人間にとってもドングリの生態を理解することは重要である。
ドングリの生態で特に興味深いのは以下の2点
・ドングリはどのようにして種子を運ぶのか
・年によって豊凶があるのはなぜか
この本の主題は年による豊凶の謎を解き明かすことなのだがそれは本書にゆずるとして、ここでは前者について軽く紹介する。
ドングリはどのようにして種子を運ぶのか
樹木にとって種子を遠くに運ぶことは至上命題である。樹木は樹冠によって自分の幹の太さ以上の面積を占有しており、自分の真下に種子を落としてもそれが育つことはないからである。
そこで樹木は様々な戦略を用いて種子を遠くへ運ぶ。
ヤナギは、種に綿毛をつけ、風によって種子を運ぶ。
ヤマザクラの実は鳥が食べ、未消化の種子が糞として排出されることで運ばれる。
ではドングリはどのように種子を運んでいるかというと、リスやネズミなどが貯蔵したドングリのうち、食べられずに放置されたものが発芽するという戦略をとっている。
このような方法を貯食散布という。これはいかにもロスが多く良い方法には見えないが、この方法にも利点がある。
利点の一つとして、種子が利用できる栄養の豊富さが挙げられる。例えば風による散布をとる樹木は必然的に種子を軽くする必要があるので、初期成長に使える栄養分が少ない。その点貯食散布なら生き残ったドングリは完全な状態で残るので、初期成長においてアドバンテージがある。
面白かったのは貯蔵をめぐる駆け引き。クマなどの大型哺乳類は貯蔵をしないためクマに食べられる分はドングリにとっては丸損である。
しかし当然ネズミやリスよりクマの方が優先的にドングリを食べられるので、貯蔵散布を達成するためにはドングリ側に追加のメカニズムが必要である。
これが年毎の豊凶という事象につながっていくのだが、詳しくは本書で。
総評
面白かった。ドングリに年毎の豊凶があることは知っていたが、この本を読むまでは単に周期的な表裏か、あるいは天候によるものだと思っていた。しかし実際には様々なところに制約があり、コストがあり、あらゆる生物が関わる複雑な系のなかでの営みだということが分かった。
豊凶の謎については、この本のなかでも(方向性は示されつつも)はっきりとした答えは出ていない。しかし読んだ後には少なくとも現時点では答えが出るはずはないだろうということも納得できる。
分からないから調べる、その結果分からないことが分かる、しかし後の分からないは初めの分からないとは違っている。答えを出すことではなく、解像度が上がることに楽しみを見出していく姿勢は自分も大事にしていきたいと思った。
次に読みたい
今回の本が2010年刊行で、下の本が2019刊行。別の研究者の視点も知りたいし、およそ10年分のどんぐり研究界の進歩を知る意味でも併せて読むとよさそう。
どんぐりの生物学: ブナ科植物の多様性と適応戦略 / 原 正利