『バースデー・ワンダーランド』

 

 『響け!ユーフォニアム』を観に行ったら満席で、代わりに『シャザム!』を観た。パンケーキ屋が満席でも隣の焼肉屋に入ることはないが、映画館では普通のことだ。面白かった。

 そして日を改めて観に行った『響け!』はまたもや満席で、代わりに観たのが『バースデー・ワンダーランド』。

 

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 錬金術師に連れていかれた異世界で、救世主となって旅をする話。

アカネ(声:松岡茉優)の誕生日前日、目の前で地下室の扉が突然開く。そこに、謎の大錬金術ヒポクラテス市村正親)とその弟子・小人のピポ(東山奈央)が現れる。2人はアカネに、私たちの世界を救ってほしいと懇願する。自分に自信がないアカネはできないと断るが、好奇心旺盛で自由奔放な叔母チィ(杏)に促され、骨董屋の地下の扉から繋がる“幸せ色のワンダーランド”へ無理やり連れて行かれてしまう。そこは、時空を操るクモやまん丸でモコモコの羊、巨大な鳥や魚と、アカネたちとそっくりな人たちが暮らす世界で、“色が失われる”危機に瀕していた。色を作る水を守るため、アカネはワンダーランドの救世主となり、チィやヒポクラテス、ピポと共に、色とりどりの町を巡る。一方、ザン・グ(藤原啓治)たちは、命の源の水が湧く井戸を破壊しようと計画を進行していた。ついにアカネとザン・グが井戸の前で対峙したとき、アカネは人生を変える決断を下す……。

 いかにも児童文学という感じの筋書きで、然り原作は児童文学。

 

 『響け!』の代わりと言っても、監督が『モーレツ!オトナ帝国』の原恵一ということでそこそこ期待はしていた。しかし観終わったときの感想は、微妙。良かった部分も確かにあるのだが、それ以上に(悪い意味で)気になったところが多かった。

 

 

よかった点

女性キャラの顔が良い

 長編アニメにおいてもっとも重要なこと、女性キャラの顔。顔、良いです。

 

美術

 美術監督は『心が叫びたがってるんだ』でも美術監督を務めた中村隆。冒頭の家庭のシーンや、サカサトンガリの町などは特に好き。

 

チィの人物像

 チィは主人公の叔母で、異世界には招かれてないものの持ち前の好奇心でついてきて、内気な主人公を引っ張っていくという役どころ。他のキャラクターが物語上に配置された人形のような印象を受ける(後述)なかで、唯一チィだけは人間らしく感じた。

 砂漠で星空を見上げるシーンが特に印象的。

 

デカい鳥が出ている

 鳥がデカくてピンクだと……うれしい

 

 

気に入らなかった点

話が平坦

 異世界に来てまずやるのが廃品回収車から鳥の巣を救うこと。なんで?全編通してそんな感じのスケールで進むのでまったく盛り上がらない。

 

話に説得力がない

 この映画に言いたい文句はこれに尽きる。”水不足で色が失われつつある世界”という設定なのに普通に川は流れ緑は色づく世界。さも重要そうに出てきた錬金術のアイテムも道中まったく活かされず、そのくせラストにどっかり尺取って再登場。王子の顛末もアイデア先行でまったく人物に共感できない。他にも挙げればキリがない。

 キャラクターもストーリーも、プロットのままとりあえず出しましたみたいな印象を受ける。

 

 

総括

 今まで観たのが軒並み超大作だったのもあるが、それを差し引いても今年ワースト。not for me.

 

 

 

 

 

 

 記憶に残る映画というのは二種類あると思う。一つは面白かった映画。文句なく楽しんで、見終わった時に最高だったと言えるような映画。

 もう一つは、第一印象はなんでもない、むしろちょっと気に入らなかった映画。気に入らなかった部分が喉に引っかかった小骨のように心に残り、見終わった時にもやもやした感覚を残す映画。しかし一たびそのもやが晴れると、いままで気に入らなかったことが一気に好きに逆転していく。そういう映画がある。

 

 この映画がそうだった。良いところはあるが、それ以上にダメな部分が気になる。スタッフロールが流れてもすっきりしない。掛け値なしに面白かったとは言えないが、その後もなんとなく頭から離れない。違和感がある。なにか。

 

 そして気付く。受け取り方が違っていたのだということに。この映画は焼肉を食べに行ったら出てきたパンケーキなのだということに。

 

 この映画は冒険活劇でも、大人が泣ける物語でもない。この映画はただ、どこにでもいる子どもがなんとなく旅をして、世界の美しさにすこし気付き、一歩踏み出す。それだけを描いていた。

 主人公が選ばれた意味?必要ない。物語に盛り上がりやアクションがない?必要ない。話に説得力がない?それはさすがに気になったのでもう少し頑張ってほしかったが……。

 とにかく、この映画にそれらを求めるのはパンケーキ屋で牛カルビを探すようなものであって、ないものねだりだ。この映画の本当の魅力とは、現実と地続きな異世界の美しさ、物語と主人公を引っ張っていくチィの魅力、人間一般の顔の良さ。そういった薄ぼんやりと世界を包む善性だ。

 

 あれだけストーリーをボロクソに言っておいて好きなところが”ぼんやりとした良さ”ではつり合いが取れてない気もするが、それでも最終評価は"観て良かった"とはっきり言える。

 確かにダメな部分はある。しかしそれさえも愛おしい。好きになってしまったということだ。